日本や欧米と似て非なる、中国のWeb事情。
前回の中国Webサイト最前線Vol.2では、中国の新たなWebサイトの形である「ライトアップス」についてお話をしました。閲覧してはシェアする「使い捨てWebサイト」はWebの使い方そのものに大きな変化をもたらしています。
そんなライトアップスブームを支えているのは、4.38億人も利用しているSNS「WeChat(微信 ウェイシン)」。これは果たしてどんなものなのでしょうか?今回も私ロジャーがご紹介します!
「どのSNSを使ってる?」と聞かれて、Facebook、Twitter、LINE、LinkedIn、Google+などと答えるのは日本や欧米ではごく当たり前の話ですよね。
ところが中国ではその質問自体にあまり意味がありません。なぜならば中国5.27億人のモバイルネットユーザーのうち、4.38億人はWeChatを使っているからです!もちろん世界規模のFacebookやTwitterも使われていますが、実に8割のユーザーが同じSNSを使っているのであればそれが自然と「標準」になるわけです。
少し前までは、Tencent社のQQ、そしてTwitterの中国版ともいえるSina社のWeiboがSNSの主流でした。しかし、最近のWeiboはSNSというよりもニュース閲覧など、受動的な情報消費のプラットフォームに変化してきましたし、WeChatの興隆とともにQQも徐々にその役割を終えていったように思います。
さて2011年にローンチされたTencent社のWeChatはモバイルオンリーのソーシャルアプリであり、音声とキー入力によるメッセージングから、グループチャット、「Moments」というタイムライン、身近なWeChatユーザーの表示、たくさんの絵文字など、LINEのようなソーシャルアプリと機能面ではさほど大差ありません。中でも興味深いのは、WeChatはWeChatのネイティブWebブラウザとデベロッパAPIまで提供しているところです。
▲LINEやカカオチャットのようなソーシャルアプリの定番機能から…
▲光熱費のお支払い、最寄病院検索、なんと旅行のビザ申請まで、生活に密着した便利機能がたくさん揃っています
実はWeChatのネイティブブラウザとデベロッパAPIの提供こそ、ライトアップスブームの火付け役ではないかと考えられます。モバイルネット人口の8割も使っている巨大プラットフォームで直接Webを制作できることは企業にとって大変大きなビジネス価値があるからです。
3、4年前までの企業は主にFlashによるWeb制作に多くの予算とリソースを注いでいました。ですがiPhoneの流行はFlashの終焉を意味し、それによってWeChat専用サイト(つまりライトアップス)にその予算が移っていったのです。
ちなみにWeChatという巨大プラットフォームに自社のライトアップスがなかったり、あってもデザインが良くなかったり使いにくかったりすると、市場での競争力はほぼ皆無とまで言われています。企業にとって、競争力を維持するためにはクオリティの高いライトアップスをWeChatで提供することがもはや必須となってくるのです。
いくらライトアップスとは言っても、一種のWebサイトであることは変わりありません。WeChatでなく、一般のサーバー環境でも構築できるわけですが、なぜ企業はWeChatにそこまでこだわるのでしょうか?
ひとつの大きな理由はWeChatブラウザでアクセスするとユーザーのプロフィールデータがしっかりと残るからです。
他のSNSと同じように、WeChatを利用するにはユーザー登録が必要なため、WeChatでライトアップスをアクセスすると、WeChat ID、ニックネーム、プロフィール写真、現在地、言語、性別、登録日など、かなり細かいユーザーデータが取得できるのです。
マーケティングオートメーションやグーグルアナリティクスのようなツールを設置する必要もなく、WeChatでコンテンツを作るだけでここまでデータが取得できてしまうのは企業にとって大変魅力的なのです。
▲企業のみならず、銀行から警察までWeChatのライトアップスや公式アカウントを持っています。身の危険を感じたら通報したりすることも可能です!
これまで3回にわたって中国の最先端トレンドをご紹介しました。いかがでしたでしょうか?
中国へ進出する際の戦略として、とりあえずPC版サイトを作ってコンテンツを中国語に訳して載せればいい、という時代はもう終わりました。より多くの顧客を獲得し、競合との差別化を図るためにはしっかりと現状を踏まえ、トレンドに乗る必要があります。
ただし、最新トレンドだけ追っかけて中途半端な戦略を立ててしまっては時間、資金とリソースの無駄になるだけです。今のWeChatやライトアップスにせよ、将来的に爆発的に流行するウェブサービスにせよ、どんなブームが到来しても通用するコンテンツ戦略に重点を置くべきであることは、間違いなさそうです。