先日5月30日に開催された「ここでしか聞けない!デジタルマーケティング最前線」セミナーは、まさしく普段絶対に聞けないお話を聞かせていただいた大変貴重な機会でした。今回そのほんの一部ですがまとめましたのでぜひご覧ください!
第1部ではコンテンツの作成や情報メディアの運営、コンサルティングを行う株式会社インフォーバーンでシニアプランナーを務める野坂洋氏が、最新のコンテンツマーケティングの状況について説明した。
・メディアにおける大きな3つのトレンド
潜在的な顧客へアプローチするためのメディアやアプリは今や群雄割拠の状態。すさまじい量の情報が溢れかえっている中で、企業が提供する情報も埋もれてしまい、「届けること」が非常に難しい状況になってきた。
そこで野坂氏は、現在メディアに起こっている大きな3つの変化を指摘した。
1.分散型メディアの台頭
これは、自社のWebサイト内にコンテンツを集約してユーザーを呼び込むのではなく、直接プラットフォーム(主にソーシャルメディア)にコンテンツを配信することで、リーチを広げるメディア、もしくはそのやり方を指す。
今までとの大きな違いは、「コンテンツの作り方」にあると野坂氏は指摘する。分散型メディアでは、作り上げられた元のコンテンツを再編集したり、間引いたりするのでなく、最初からそれぞれのプラットフォームに最適な独自のコンテンツを作ることが重要となるという。
2.非分類型サイトの登場
非分類型サイトというのは、情報をあえてカテゴライズ(分類)していないサイトを指す。
情報を企業が一方的に分類するのではなく、ユーザーが欲している情報をリアルタイムに自動表示させることで、欲しい情報だけにスピーディに到達することを可能にする。
またその際、クリックしなくても自動的に関係するコンテンツが下部に表示され続ける「無限スクロール」が併用されることが多い。こうすることでユーザーはいちいちカテゴリーを探してたどらなくても良くなり、興味のおもむくまま、芋づる式に欲しい情報を得ることができる。
3.没入できるインターフェースの増加
ユーザーの意識を情報に集中させエンゲージを深めるために、テキストや写真だけでなく動画、インフォグラフィックを組み合わせたインターフェースが増えてくる。さらに、VR(バーチャル・リアリティ)を使ったインターフェースの研究も進められており、今後ますます発展が見込まれているという。
・「コンテンツの塊」へ
これからは、ソーシャルメディアやアプリを駆使することで個人のパーソナルなスペース上にコンテンツを流さなければ、メッセージは届かないと野坂氏は言う。
そのために今後企業サイトも、従来のようにコンテンツをツリー状にきれいに分類するのではなく、ユーザーのニーズや視聴態度に合わせて動的に並び換えができるようにするための「コンテンツの塊」になる必要があると締めくくった。
続いて第2部では株式会社ニューズ・ツー・ユーでマーケティングコミュニケーション部 マネージャーを務める朝火英樹氏がネットPRの役割について語った。株式会社ニューズ・ツー・ユーは日本におけるネットPRのパイオニア的存在であり、ネットPRポータルサイトの運営からネットニュースリースの書き方や発信のタイミングの相談まで幅広い支援を行っている。
・ネットPRとは何か
朝火氏は、最初にネットPRとは何かという素朴な疑問に対して以下のように説明した。
さらにネットPRの補足的な利点として、ユーザーの興味関心が高くクリック率が高いことや、リリースを出すと自社サイトへの反映が自動的に行える仕組みで担当者の手間を省ける点などを挙げた。
また、動画はリリースと相性が良く、手軽に組み合わせることもできるため、ネットPRの可能性はさらに広がっていくと強調した。
・ネットPRをどのようにして活用していくべきか
その後、朝火氏はいくつかの実例をもとに、ネット PRの活用方法を提示した。
1. リリースをランディングページにしソーシャルメディアと連動
ある企業は、新商品の発表をソーシャルメディア上で行いその誘導先をリリースページにしているという。従来であれば、自社で作った商品ページに誘導するのが一般的だが、スピードを重視しリリースに誘導することでタイミングを逃さずに認知につなげた。このようにソーシャルメディアでの拡散とニュースメディアなどでの掲載の組み合わせは、それぞれ単発での展開よりも効果が高いという。
2. 大きなニュースでなくてもネタにはできる
とあるメーカーでは、毎月新商品を出すたびにその商品リリースだけでなく、1週間後にその商品の売り上げランキングをリリースして2回話題にしているという。またブログの更新などでも十分にネタになりうることや、自社しか持っていないデータを集めてニュースにするなど、一見ニュースにするほどの話題ではないように自社では思えるものでも、工夫次第で新しいコンテンツになり得る事例を紹介した。
最後に朝火氏は、企業規模やメディアとのつながりに関係なく、情報発信の機会はすべての企業に平等にあり、リリースの書き方やソーシャルメディアとの組み合わせなど工夫次第でリーチを広げるチャンスはまだまだ大きいと締めくくった。
3部では1部、2部を通してコンテンツの重要性が語られたのを受け、そうした魅力的なコンテンツに惹かれて自社サイトを訪問してくれたユーザーを実際の「顧客」に変えていくBtoBマーケティングの流れやマーケティングオートメーションについて当社代表の志水が語った。
・BtoB企業をとりまく環境の変化
ネットによって情報を簡単に得ることができる現代では、営業担当者が会う前に購入プロセスの半分以上が顧客側ですでに完了しているという調査結果がある。
これはネット上でおおよその勝敗が決しているということであり、その後営業がいくら努力をしても成果を上げるのは難しいと言える。
つまり、今まで営業マンの足に頼ってきた多くのBtoB企業にとって、デジタルマーケティングはいまや不可欠になったことを意味していると志水は言う。
・マーケティングオートメーションの登場
そんな中、登場したのがマーケティングオートメーションである。マーケティングオートメーションとは、マーケティングの各プロセスにおけるアクションを自動化するためのプラットフォームを指すが、ただ従来の作業が省力化するだけでなく、「誰に対して何をいつ行えばいいのか」というマーケティング施策の判断を、データを元により戦略的に行えるようになったのが特徴であるという。
また志水は、中小企業を中心に世界で最も多く利用されているマーケティングプラットフォームである「HubSpot」を使いながら、実際に行うべきBtoBマーケティングの全体フローを詳しく説明した。
・マーケティングと営業との連携がカギ
さらに志水は、営業とマーケティングの関係性をより強固にすることができるのがマーケティングオートメーションのメリット、と強調した。営業とマーケティングの間には伝統的に高い壁があるが、マーケティングオートメーションで顧客の状況をお互いに共有することで、マーケティングは顧客の発見から育成、営業は受注(クロージング)というそれぞれの活動を逐次連携しながら効率的に進めることができる。
特にBtoB企業においてはマーケティングと営業との連携こそがデジタルマーケティングのカギであり、マーケティングオートメーションで今後の企業活動が大きく変わる可能性を示して講演を締めくくった。
最後の4部では、トヨタ自動車株式会社の平野義孝氏、ヒルトン名古屋の庄かなえ氏、元株式会社東芝の荒井孝文氏ら経験豊かなマーケター3名によるパネルディスカッションが行われた。
・どのようにコンテンツに取り組むべきか
志水
コンテンツの重要性について1、2部でもお話がありましたが、みなさんは企業から発信するコンテンツについてどんなお考えのもと、どのように取り組まれていらっしゃいますか。
庄
はい。私たちホテルはサービスそれ自体がコンテンツであり、いわば「コンテンツの宝庫」という点では他の企業に比べて恵まれていると思います。しかしご存知のとおりこの業界は「じゃらん」や「ぐるなび」などの外部サイトが主な情報発信拠点となっています。
したがってホテルが自社サイトを使って発信すること自体、それほど積極的ではありませんでした。とはいえ徐々に自社サイトでのダイレクト販売にシフトしてきていますし、今後はホテルならではの豊富なコンテンツをどのようなメディアを使ってどんなタイミングで届けるか、ということを私たち自身が戦略的に行っていくフェーズになってきていると感じています。
平野
車の業界では、状況が大きく変わってきています。
以前は大多数の人が車に興味・関心を持っていて、新車が発売されると必ず、現車を確認しに、カタログをもらいに販売店まで来てくれていました。
しかし今は違います。そもそも車に対する興味がないことに加え、「新発売情報はネットで十分入手できる」ようになり、ネットの中だけで購入検討プロセスの大部分が出来てしまう。しかし、車はお店に来てくれなければ購入することが出来ませんのでネットでの情報収集・購入検討の中で、自分のお店で買ってもらえるよう販売店殿がデジタルによるエリア・マーケティングを行う重要性は以前に比べて大きく増しており、その可能性も広がっています。また、コンテンツという観点から言えば、店舗ならではの発信情報、自社の特別サービスや、販売店スタッフによる活き活きとした動画などを積極的に発信すること自体が、消費者に対して有効で必要なコンテンツになるとして日々実践しているところです。
荒井
BtoB企業では、コンテンツのネタはないし、お金もないとよく聞きます。しかし、よくよく話をすると眠っているコンテンツが実はたくさんあるんですね。展示会のパワーポイントの説明資料だったり、営業時の説明パンフレットだったり。こういう資料をもとに、ネットで発信できるように対応させていくだけでも、十分コンテンツにはなりうるんです。特にBtoBの場合、大事なのは「お客さんが欲しがっている情報かどうか」であり、コンテンツの派手さではありません。今あるものを生かす、そういう姿勢がとても大事だと思いますし、私も実際にそうやってきました。
しかし一方で、会社でソーシャルメディア利用の許可を取るのに何年もかかったりしたなど、デジタル関連業務は上司に理解されにくいという側面もあります。
・周囲の理解を得るには「事例」「説得」、「情熱」が必要
志水
今、上司の説得が必要だというお話が出ましたが、デジタルでのマーケティングに対して組織内の理解が十分でない企業も多いかと思います。そこで皆さんが営業部や経営企画部などの周りの部署とどう協力して仕事をされているか教えていただけますか。
荒井
まず、マーケティングは営業の仕事の邪魔をするのではなく、手助けすることができる、同じ方向に向かうことができるんだ、ということを伝えることが重要です。そしてとにかく一度、事例を作ってしまうこと。デジタルマーケティングは効果があるということを実感値として理解してもらって初めて、周囲が変わってきます。あとは、私の例がそうでしたが他の部署との折衝に必要なら自分が「兼務」しまくること。実はそれが一番早いのかもしれないです(笑)。
庄
実は未だに社内でもマーケティングが「魔法の杖」と思われている節があるんですね。来るお客さんがちょっと少なかったりすると、「テレビ呼んできて!」となったりする。そんなに簡単な話じゃないのに(笑)。いずれにしてもテレビ露出といった偶発的なものに頼るのではなく、自分たちで地道なところから着実にやらなければいけない。それを社内にもしっかり伝えることが大事なんじゃないかと思っています。
平野
実際はそれぞれの企業にWebサイトをはじめとするデジタルマーケティングに取り組んできた過去の歴史があるのに、「あそこ(の企業)はこんなことやっているぞ」とか、「これ見づらいから直して」とか、マーケティング文脈を無視した指示が、上司や経営層から急に降りてきて、頭を悩ますWeb担当者は多いですよね。
そこで重要なのは、原点に帰ること。お客さんに対して何を届けたかったのかを自社のマーケティング戦略の観点で振り返り、改めてスタディする。そして全社会議の席を設け、Web担当者だけでなく、幅広い人たちに意見を出してもらう。なによりもWeb担当の人がしっかり情熱をもって舵をとることが非常に重要だと思います。
志水
みなさんの話を通じて、やはり組織の中で情熱をもって、突破しようとしていく人が重要であることを改めて感じました。勇気をもらった方も多いと思います。本日は本当にありがとうございました。