インバウンドマーケティングに取り組む上で、マーケティングと営業(フィールドセールス)の間の存在としての「インサイドセールス」が非常に有効です。インサイドセールスを行うことでマーケティング活動によって抽出された有望な(ホットな)見込み客の確度をさらに高め、アンカーである営業(フィールドセールス)がスムーズに受注できるようになるからです。
今回はインサイドセールスとは何か、その役割や導入のメリットについてご紹介します。
インサイドセールスとは、見込み客(リード)に対して電話やメール、Web会議システムなどを使って非対面で行う営業活動のことです。その役割は端的にいえば、獲得した「リードの育成と選別」です。ホットなリードは機を逃さずフィールドセールスへ繋ぎ、それ以外の見込み客にはナーチャリングを続けます。
ひとくちに見込み客といっても検討段階はそれぞれ異なり、フィールドセールスが手当たり次第にアプローチをかけても効率が悪いですよね。そこでインサイドセールスです。非対面の効率の良さをいかして多くのリードにアプローチし、確度の高いリードはすぐにフィールドセールスへ引き渡します。一方でまだ検討段階が浅いリードにはコミュニケーションを積み重ね、当人たちが自覚できていない課題に気付かせたりニーズを引き出す、すなわち育成(ナーチャリング)を行います。
つまり、インサイドセールスはフィールドセールスの前段階でリードとの非対面のコミュニケーションを通して関心度や温度感を把握し、リードの育成や選別を行うのがその役割です。
インサイドセールスとフィールドセールスは、ビジネスのオンライン化の浸透を境に定義が変わってきました。以前はフィールドセールス=外勤営業、インサイドセールス=内勤営業と活動場所で例えられていましたが、昨今はオンラインによる商談が一般化し、フィールドセールスであっても必ずしも顧客を直接訪問するとは限らなくなりましたよね。
そのため、現在のインサイドセールス・フィールドセールスは活動場所ではなく、営業活動における段階の違いで区別されています。フィールドセールスは受注・成約のクロージングに向けた営業活動を担当し、インサイドセールスはその前段階にあるリード育成、リード選定など案件化に向けた営業活動を担うという位置づけです。
インサイドセールスの歴史に少し触れておくと、この営業手法はアメリカで広がりました。先述の通り、フィールドセールスはもともと直接訪問の営業手法を意味しますが、国土が広大なアメリカでは見込み客を1件ずつ訪問しようにも物理的にできませんでした。移動時間もコストもかかりすぎるからです。そこで郵送によるDMや電話でのセールストークといった非対面の方法で1日に数十社とのコミュニケーションを可能にする手法、インサイドセールスが発達したのです。
日本は国土が狭く企業が大都市に集中しているため、これまで営業マンが直接顧客を訪問するフィールドセールスが行われることが中心でした。しかし近年では、社員数をそこまで増やせない企業の事情や、顧客情報をデータベースに蓄積することが簡単にできるようになったこと、またコロナ禍による急速なビジネスの非対面化も後押しとなり、インサイドセールスを営業手法の一つとして取り入れる企業が増えています。
インサイドセールスは見込み客(リード)と主に電話やメールでコミュニケーションを取ります。「電話によるセールス」と聞くといわゆる「テレアポ」を連想するかもしれませんが、テレアポはインサイドセールスの一部という考え方です。テレアポはあくまでアポイントメントを取るためだけのものですが、インサイドセールスの目標は「受注に繋がる顧客ニーズの把握」であり、リードの育成および選別が重要な使命です。この点が単なるテレアポとインサイドセールスの大きな違いです。
また、インサイドセールスはフィールドセールスとの連携も不可欠です。インサイドセールスが興味・関心を育み、自社の課題を自覚させた見込み客を最終的にクロージングするのはフィールドセールスチームだからです。言い換えると、リード情報を十分に共有することでフィールドセールスはゼロからのスタートではなく、顧客の課題を事前に把握し、積極的にその解決に動く「攻めの営業」が可能になります。
インサイドセールスが育成した見込み客をフィールドセールスが対面営業で成約へ結びつける。両者はまさにアシストとゴール、2つで1つの関係性といえます。
多くの企業ではインサイドセールスとフィールドセールスを組み合わせていることが多いようです。インサイドセールスによって興味・関心が高いことが分かった見込み客や直接話を聞きたがっている見込み客に対して、フィールドセールスチームが初めて足を運ぶことになるからです。インサイドセールスの存在によって、営業はただの「御用聞き」ではなく、顧客の課題を事前に把握し、積極的にその解決に動く「攻めの営業」へ変化するわけです。
インサイドセールスはインバウンドマーケティングとも相性抜群です。そもそもインバウンドマーケティングとはオウンドメディアやブログ経由で見込み客を集め、ナーチャリングして成約へつなげるマーケティングモデルです。
自社の製品やサービスに関心を持っている人を獲得できる手法ではありますが、インバウンドマーケティングで獲得する見込み客の検討段階は実にさまざまです。すぐにでも商談したいという人もいれば、まだ課題を顕在化しきれていない浅い層も少なくありません。
そうした個々の関心度を把握し、適切に対応できるのがインサイドセールスです。ホットな見込み客はすぐにフィールドセールスへつなぎ、一方でまだ関心度の浅い見込み客に対しても取りこぼさずアプローチを続けることでリードを育成するのです。つまり、インサイドセールスはマーケティング部門と営業部門の「間」を取り持つ役割があると言えます。
またインサイドセールスは、マーケティングと営業の情報共有にも大変役立ちます。顧客のニーズやステータスに関する情報共有がスムーズに進むことで、社内全体で目標やKPIを共有してより効率よく受注活動に取り組むことができるからです。成果向上のためには、インサイドセールスが重要なのです。
インサイドセールスを導入するメリットをまとめてみます。
インサイドセールスが見込み客の関心度や課題、緊急性などの情報を把握し、受注につながる可能性が高い見込み客を絞り込んでフィールドセールスに引き渡すことで商談の質が上がります。すでにニーズや課題がある状態ですから対面営業を受ける見込み客にとってもストレスがなく、商談がスムーズに運び成約率アップも期待できるでしょう。
一方、まだ確度の低い見込み客のフォローもインサイドセールスに任せられることでフィールドセールスの負担を軽減し、同時にリードの休眠化を防ぐこともできます。
インサイドセールスは電話やメールなどの非対面で行います。移動時間やアポイントの手間がない分、1人あたりが対応できる数が多く、担当者の数などリソースが限られていても多くの見込み客へ接触することができます。
また、商談の前段階の広く浅いアプローチが目的なので1リードあたりにかける時間も少なくて済みます。すなわち、少ない人数で多くの見込み客にアプローチできるため、営業担当の人手不足の対策としても有効です。
ビジネスにおいてはタイミングがものを言うことも少なくありませんよね。リードの状態を常に把握するインサイドセールスなら、見込み客がサービス資料の問い合わせ、セミナー・ウェビナーの申し込みなど何らかのアクションを起こした場合も即座にフォローできます。相手の確度が上がったホットなタイミングを逃さないことで効果的なアプローチができるわけです。
反対に、まだ温度感の低い見込み客も手放しません。すぐに商談にならないリードは休眠化しやすいのが多くの企業の課題ですが、インサイドセールスはフィールドセールスに代わってそのフォローを担うことができます。メールなど非対面のコミュニケーションだからこそ、効率よくアプローチを続けられ休眠化を防げるわけです。
リードに認知された状態をキープしておけば予算確保時期前のフォローなどもしやすく、競合への流出や新たなニーズをヒアリングする機会も得ることができるでしょう。
見込み客を育成するには彼らの状況を常に把握し、興味や関心などの変化に応じてとるべき対応を標準化しておくことが重要です。インサイドセールスは、どのタイミングにきたらヒアリングをする、どのような提案を行うといった判断基準やフローを標準化しやすく、営業活動の属人化を防げることもメリットといえます。
また、見込み客との対話履歴などコミュニケーション内容を記録に残すことが不可欠なため、インサイドセールスは業務を可視化しやすいのも特徴です。
外勤が中心のフィールドセールスに対して、インサイドセールスは非対面の特性から働く場所を選ばない柔軟な働き方が可能です。インサイドセールスとしてのスキルを前提とすればリモートワークも可能なので、例えば在宅を希望する子育て世代も働きやすく、企業側にとっても優秀な人材を活用しやすいといえます。
実際、社内でインサイドセールスを立ち上げるには何が必要なのでしょうか。
まず目を向けるべきはリードの管理です。後述の「データ連携を円滑にするツール選び」で詳しく説明しますが、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスの三者が同等のリード情報を共有できる環境が必要です。部門を隔てることなく横断的に共通認識を持てるように進めましょう。
また、棲み分けについても共通認識を持たなくてはなりません。例えば、フィールドセールスが着手するリードと、インサイドセールスが着手するリードはどう判断して分けるのか。インサイドセールスが電話をかけるなら、そこでヒアリングした内容をどのように蓄積し、どのようなフローでフィールドセールスに共有するのか。まずは情報連携の基盤とルールを整え、認識をそろえることが後に成果をあげるカギとなります。
加えて、マーケティング部門との連携も重要です。フィールドセールスがインサイドセールスの情報を活かすように、インサイドセールスもマーケティング部門に蓄積された情報を活用してアプローチすることで成功率が格段に上がるからです。
情報共有は必ずしも、マーケティング部門>インサイドセールス>フィールドセールスの一方的な流れとは限りません。例えば、見込み客の成約率情報を営業側からマーケティング部門に展開することで、見込み客を引き渡すタイミングやマーケティング全体の費用対効果を検証し、必要であれば改善もできるでしょう。
KPIとは目標達成のために重要な業績評価の指標です。では、インサイドセールスのKPIはどのように設計すればよいでしょうか。
インサイドセールスは見込み客の育成・選別を行い、確度の高いリードをつなぐ役割のため、KPIには「商談化数(商談率)」「着電数・架電数」「メール開封率」などがよく用いられます。また、インサイドセールスに見込み客リストの育成および質の向上を期待する場合は、商談後の「受注件数(受注率)」をKPIとするケースもあります。
留意したいのは、マーケティング部門やフィールドセールス部門など、インサイドセールスが連携する部門とKPIの定義や条件の認識をそろえておくことです。例えば、必要商談数はフィールドセールス部門の目標受注件数から算出しますが、受注までのリードタイムをそろえるなど細かい部分まで配慮して設計することで最適なKPIとして機能するはずです。
データの整備ができたら、次は人材の登用やチームの仕組み作りです。インサイドセールスの担当者に必要な能力は、言葉の力でロジカルに情報を組み立てられる論理的思考力です。また、顔を合わせない電話の会話や音声から相手の表面的なニーズのみならず潜在的なニーズに気づき、本質的な課題を引き出せるコミュニケーション能力や、データベースにある既存の情報とヒアリング内容を組み合わせてその場で仮説を構築できる頭の回転の早さも求められるでしょう。
ここまで書くと「そんなスーパーマンは自社にはいない」と思われがちですが、営業経験者であれば無意識の内に行っていることだとも言えます。
どのようなタイミング、どのような言葉選びで見込み客との信頼関係を築いていった、というような成功体験は営業経験者一人ひとりの中にあるものです。そうしたTIPSを気軽に共有できるチーム体制が整えばさらに理想的でしょう。
マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスが同じデータベースやツール、インターフェイスで情報を共有できていると、お互いのコミュニケーションも円滑になります。データが共有できていても、それを素早く閲覧できなければ実用性は高くありません。したがって、マーケティングオートメーション(MA)やCRMのツール導入がほぼ必須と言えるでしょう。
まず第一に進めるべきは、リードのマスターデータベースの整備です。部署ごとに別々のシステムを導入し、別々のデータベースに同一リードのデータを格納しているものの、つなぎこみができていなければ情報活用はできません。
SFAやCRM、MAなどのシステムを導入し、顧客のデータを一つのデータベースに統合して参照できるようにしましょう。データの名寄せや重複チェックなど、地道でマンパワーを要する作業が多いのですが、ここで妥協すると後でトラブルになりかねません。作業はなるべく丁寧に進め、レビューやダブルチェックも行って顧客情報に誤りがないことを確認しましょう。
MAやCRMを導入し、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールスの三者が情報を共有できるようにすること、共有した情報に基づいて三者が一気通貫で見込み客や既存顧客をフォローできるような体制を作ることがインサイドセールスの成功、ひいては成約率を向上させる第一歩です。
CRMを活用したリードの情報共有について、もっと詳しく知りたい場合はこちらの記事の「HubSpotのCRM(顧客管理システム)ならリードナーチャリングの成果があがる」もぜひご覧ください。
いかがでしたか?
慢性的な人手不足が続く中、業務効率化を図りながら成果を上げるインサイドセールスを導入する企業は増えています。インサイドセールスはマーケティングと従来型の営業(フィールドセールス)の間に位置し、マーケティング部門が抽出した有望な見込み客をさらに育成し、受注の確度を高めたところでフィールドセールスにつなぐ重要なポジションです。
もし、マーケティング部門、営業部門ともに優れているのに思うような成果が出ていないのなら、インサイドセールスの導入が新たなステップアップのカギになるかも知れません。
まずはスモールスタートから始めてみてはいかがでしょうか。