BtoBビジネスにおける、効果的なマーケティング戦略の構築や実行には、顧客の購買プロセスを把握することが不可欠です。今回は、顧客の購買行動を理解するために必要な「バイヤージャーニー」の作成方法や活用の仕方を押さえましょう。______________________________________________________________________
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「バイヤージャーニー(Buyer Journey)」は、顧客が自社製品・サービスに興味を持ってから成約に至るまでのプロセスをステージに分けて表します。顧客理解を軸としたマーケティング戦略を策定・実行するためには欠かせない要素です。
BtoBマーケティングは、製品・サービスが成約となるまで複数の意思決定者が関わり、検討期間も長いことが特徴です。そのため、リードの育成と継続的な信頼関係の構築が重要な鍵となります。顧客に適切で細やかなアプローチをするためには、成約までの購買行動の各ステージで、ニーズや課題に寄り添った施策をおこなうことが必要です。
顧客の抱える課題に対し、解決に向けて適切にサポートすることが成約までの道のりをスムーズにします。つまり、ステージごとに最適な顧客体験を提供することが、マーケティングや営業活動の効率・効果の上昇につながるのです。
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バイヤージャーニーと似た言葉に「カスタマージャーニー」があります。BtoBビジネスのノウハウを紹介しているWebサイトでもほぼ同じ意味で使う場合があり、少し違いが分かりにくい用語です。ここではバイヤージャーニーとカスタマージャーニーの違いについて把握しましょう。
<バイヤージャーニー>
・対象となる顧客の行動範囲:製品・サービスの認知から成約までの顧客体験
・着目するポイント:見込み客の購入までのプロセス
・目的:見込み客の行動を予測し、効果的なアプローチを探る
<カスタマージャーニー>
・対象となる顧客の行動範囲:製品・サービスの認知から購入後の顧客体験
・着目するポイント:購入前後のすべての顧客体験
・目的:顧客満足度の向上と長期的な信頼関係の維持、製品・サービスの改良
このように、バイヤージャーニーとカスタマージャーニーは活用する目的が異なります。注目する顧客の行動範囲だけを見れば、バイヤージャーニーはカスタマージャーニーの一部を抜き出したものに見えますが、着目するポイントが変わるので注意が必要です。
バイヤージャーニーは製品・サービスの成約に至るまでのプロセスを重視します。これは、顧客をいかに成約までスムーズに導くことができるかを目的としているためです。一方、カスタマージャーニーでは顧客の満足度を高め、継続性のある関係構築を狙うため、成約・購入に関連する顧客の体験を重視します。
BtoBマーケティングの複雑なプロセスを効率良く進め、効果的な顧客体験の提供と営業活動を実施するためには、バイヤージャーニーの概念を活用すると整理しやすいでしょう。
バイヤージャーニーは顧客の購買行動をステージごとに分割することで、見込み客がどのようなプロセスで製品・サービスの成約に至るのかを把握します。ここでは、顧客の購買行動を自覚、検討、決定の3つのステージに分けて考えてみましょう。
顧客が自社の抱える課題に気付き始めた段階です。顧客は自社のどこに問題があるのかを具体的に探り、課題に対して理解を深めようとします。Webサイトなどから情報収集をおこなうことで、課題を明確にしていきます。
自社の課題を明確に把握し、課題解決のための手法やツールの情報を集める段階です。自社の課題解決のためにはどのような方法があるのか、あらゆる情報を網羅したいと考えます。課題解決のための具体的な方法から応用できそうなツールまで、幅広い情報を集めていきます。
課題解決にあたり、どの手法・ツールを使うかを検討する段階です。自社の課題解決のために有効と考える手法・ツールをピックアップしており、コストや期間など具体的な情報から比較検討しようとしています。候補に挙げた製品・サービスについて詳細を調べたり、担当者に問い合わせなどをおこないます。
バイヤージャーニーを視覚的に表したものを「バイヤージャーニーマップ」といいます。以下では、BtoBマーケティングにおける顧客理解を深めるために有効な、バイヤージャーニーマップの作成方法をご紹介します。
バイヤーペルソナとは、マーケティング戦略をより効果的に推進していくために作成する、架空の人物像です。BtoBマーケティングでは企業ペルソナと個人ペルソナの2つを「サービス・製品を利用する典型的な顧客像」として作成します。
バイヤーペルソナを実在する企業・人物のように具体的に設定することによって、ターゲットへの訴求力が高いコンテンツの作成や試作の立案が可能になります。バイヤーペルソナの詳しい作成方法については、以下の記事を参考にしてください。
バイヤーペルソナを設定したら、顧客の購買行動やニーズを洗い出していきます。ここで把握した顧客行動や顧客の心理は、バイヤージャーニーマップの要素となる情報です。洗い出すための手法はいくつかありますが、ここでは2つの方法をご紹介します。
すでに製品・サービスの成約に至った顧客がいる場合は、直接インタビューをおこなう方法がおすすめです。メリットとしては、顧客の生の声を聞くことができるため、新聞・交通広告との接触、社内外のコミュニケーションや決裁フローなど、営業側でデータとして把握できない行動を把握できます。
このときに押さえておきたいのが、インタビューから得た情報が「誰の行動か」という点です。担当者、プロジェクトリーダー、決済者など、BtoBビジネスでは複数名の意思決定者が関わります。行動した人物を合わせて記録しておくと、バイヤージャーニーマップ上で分類する際にも分かりやすいでしょう。
立ち上げたばかりの新規事業や、サンプルとなるデータが無いなど、既存顧客からのデータ収集やインタビューが難しいこともあります。その場合は、バイヤーペルソナを活用しましょう。
設定したバイヤーペルソナになりきって、製品・サービスの認知から成約までの行動をできるだけ細かく書き出します。ひとりで黙々と作業するより、ワークショップなど複数名で行った方が、より具体的なアイデアやイメージが湧きます。
対面で行う場合は、付箋などで書き出せば、後でグルーピングしやすくなります。情報を補完しあい、より具体的なバイヤージャーニーを導きましょう。
ここでは、洗い出した顧客の行動と心理を、自覚・検討・決定の3つのステージに分けて整理していきます。ステージごとに顧客の目的や課題を明確にしましょう。
自覚から検討、検討から決定へ、顧客がスムーズに次のステージへ進むためにはどういった要因がポイントとなるのかを特定します。同時に、把握している顧客の行動に抜けがないか確認することも大切です。
マーケティング施策を設計するには、顧客とのタッチポイントを細かく分析し、各ステージで最適なコンテンツやコミュニケーション方法を設計します。さらに、顧客の心理や行動パターンを深く理解し、顧客の興味関心に合わせた情報を適切な方法で届けることで、より高い効果を得られるでしょう。
マーケティング施策を設計するには、まずは自覚、検討、決定の各ステージにおけるタッチポイントを特定します。タッチポイントとは、顧客が製品・サービスやブランドに接触するタイミングのことです。
例えば自覚ステージであれば、顧客は自社の課題への理解を深めるため、検索エンジンやWebサイト、広告などから情報収集をします。タッチポイントを考慮すれば、Web広告やSNS上での情報発信、目に入りやすい交通広告などの施策を企画すると良いでしょう。
コンテンツ設計をする際は、タッチポイントに着目するだけでなく、顧客の行動や心理に寄り添うことも大切です。バイヤーペルソナの視点では辿りつきにくい情報や課題が見えてくれば、マーケティングの改善ポイントにつながります。
例えば、自覚ステージではタッチポイントとしてWeb広告やSNSなどに目が行きがちです。しかし、顧客がより課題への理解を深めたいときや、課題について資料をまとめようとした場合はどうでしょうか。広告やSNSの情報だけでは物足りないと感じるかもしれません。
顧客行動や心理からそういった可能性が考えられる場合は、自覚ステージの顧客に向けたブログ記事やホワイトペーパーを作成するのも、課題解決をサポートするコンテンツとして適しています。
検討ステージではケーススタディなどのホワイトペーパー、決定ステージでは顧客の声や無料トライアルなど、顧客が知りたいと思っている情報を適切に提供できるよう、顧客視点でコンテンツを設計しましょう。
関連記事:リードナーチャリングとは?必要性とリードの育成方法、成果をあげるツールを解説
バイヤージャーニーを明確にすることで顧客への理解を深め、それを社内全体で共通認識として共有することができます。ここでは、バイヤージャーニーがもたらすメリットについて押さえておきましょう。
バイヤージャーニーは、顧客への理解を深めて効果的・効率的なマーケティング戦略を練るために作るものです。そのため、作成する際は顧客視点で進めていくことが大前提といえます。
顧客視点のバイヤージャーニーは、ステージごとに顧客のニーズに応えた
アプローチを可能にし、より強固な信頼関係を構築するのに役立ちます。顧客理解を深めることは、複雑なBtoBビジネスを成功へ導く鍵といえるでしょう。
バイヤージャーニーは顧客が商品やサービスを購入するまでのプロセスを可視化し、複雑なBtoBマーケティング戦略の効果の向上を図ることができます。特に以下のポイントは
マーケティング戦略の最適化には欠かせません。
バイヤージャーニーを作成することで、施策の目的が明確になり、各施策の効果も測定しやすくなります。施策の振り返りや継続的な改善もおこないやすいでしょう。また、施策の抜け漏れや重複の防止、精査にも役立つため、より効率的なマーケティング活動を展開できます。
バイヤージャーニーを明確にすることで、マーケティング部門内での認識のすり合わせはもちろん、インサイドセールスや営業など部門を跨いでの共有が可能になります。顧客像や顧客行動・心理などは口頭でなんとなく共有しても、部門間で必ず認識のズレが生じるものです。バイヤージャーニーマップは確認の手間を解消し、認識の誤りも防止できます。
また、各ステージごとに顧客の課題やニーズが一目で分かるので、各部門がどのように顧客とコミュニケーションを取れば良いか、提供すべきコンテンツは何か、迷走する心配もありません。
きちんとベースとなる部分の認識が揃っていれば、部門を跨いでの施策のフィードバックや、施策に関する情報共有もスムーズです。各部門がステージに合わせた最適なアプローチをすることで、顧客体験の質も向上します。
BtoBマーケティングは、顧客との長期的な信頼関係を構築することが鍵となります。顧客の購買行動を深く理解し、製品・サービスの認知から成約まで一貫性のある購買体験を提供することで、顧客は製品やサービス、ブランドに対して愛着や信頼を感じるでしょう。
バイヤージャーニーを明確化すれば、顧客のニーズに寄り添い、きめ細かく対応することができます。精度の高いアプローチは不確実性や煩わしさを解消し、顧客満足度を高めます。自社本位ではなく、顧客視点で考え、顧客のための施策を実行することが、マーケティングや営業の成果の向上をもたらすといえるでしょう。
スムーズなBtoBマーケティング戦略の推進と、顧客中心の施策設計には欠かせないバイヤージャーニーですが、一度設定すれば完了ではありません。顧客の購買行動の変化や振り返りで明らかになった改善点を踏まえ、常に見直していく必要があります。
以下では、バイヤージャーニーを有効に活用し、成果を出すためのポイントをチェックしていきましょう。
BtoBビジネスでは意思決定者が複数存在し、成約までのプロセスが複雑で長期に及ぶことが一般的です。
しかし、「社長からMA(マーケティングオートメーション)を導入するよう指示があった」など、社内でのトップダウンですでに導入が決定しており、具体的なツールやサービスの選定段階で問い合わせが来るケースもあれば、自社の課題解決のために担当者が情報を収集し、検討を進めるケースもあります。
BtoBマーケティングでは、後者のほうが新規顧客獲得のボリュームが見込めます。また、マーケティング戦略の再現性も高まるため、注力すべき顧客モデルといえるでしょう。
もちろんトップダウン型の場合でも、顧客の課題に寄り添うことで、導入後の成果の最大化や顧客満足度を向上させ、継続的な関係構築やリピート購入、契約の継続を狙えます。
バイヤージャーニーを効果的に活用するためには、常に顧客の最新動向を把握し、改善点を明確にしていくことも大切です。膨大なデータから情報を抽出していくためには、顧客データを管理するCRM(Customer Relationship Management)システムや、Google アナリティクス4(GA4)などのWebアナリティクスデータを利用するのがおすすめです。
もし設定していたバイヤージャーニーと抽出した実際のデータにギャップがある場合は、改善すべきポイントといえます。バイヤージャーニーを最適化し、施策を見直すことで、顧客へのより精度の高いアプローチが可能になるでしょう。
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事:Webサイト改善点を洗い出す!課題抽出の基本ステップと4つの方法
バイヤージャーニーは、今のビジネス環境や顧客の購買行動に合ったものか見直し、改善していく必要があります。
2020年以前の状況を思い返してみましょう。ビジネスの現場では、対面での営業が根強くおこなわれていました。しかし、コロナ禍を経てオンラインシフトが急激に加速し、今では営業活動やミーティング、セミナーなどもWeb上で実施されています。
さらに営業DXや生成AIなどがビジネスの現場で使われるようになり、技術や慣習、影響力のあるメディアも変化しました。顧客の購買行動もおおきな流れは変わらないように見えますが、さまざまな要因から影響を受けています。
特にタッチポイントや顧客の課題・ニーズは常に変化すると見て良いでしょう。今の状況に合わせて柔軟に対応していくことが、バイヤージャーニーを効果的に活用するポイントといえます。
バイヤージャーニーの設定は、顧客を中心としたBtoBマーケティングのプロセスとして非常に有効です。顧客に寄り添った施策やコンテンツ作成は信頼関係の構築につながり、結果的にマーケティングの効果を上昇させます。
私たちタービン・インタラクティブでは、Webサイト制作やリニューアルにおいても、バイヤーペルソナの設計やバイヤージャーニーの作成に注力しています。ワークショップなどさまざまな形でご提案しているので、ぜひお気軽にご相談ください。