第36回:AR、拡張する現実

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2010年2月11日

AR(オーギュメンテッド リアリティー)と呼ばれる、「拡張現実」技術が注目を集めています。

私たちの現実感覚に「ネット経由の情報」を付加し、より便利で楽しい体験に変化させる。少し前までは、SFやマンガの世界と思われていたサービスが、無料で提供され人気を博しているのです。

道ばたでiPhoneを掲げて、カメラ越しに景色をのぞく人たち。写真を撮っているわけでもなさそうだし、何を見ているのかな・・・。という状況に出会ったら、それは人気のソーシャルARアプリ「セカイカメラ」かもしれません。

セカイカメラは日本製のiPhoneアプリケーション。彼らが見ている町の景色には、「エアタグ」と呼ばれる情報の「吹き出し」が浮かんでいます。あのビルに入っている飲食店の口コミ情報やクーポン情報が表示されるとか、あの美術館で今開催されている展覧会の情報や作品のビデオが見られるとか、そんな具合に「情報が付加された現実」が画面に映し出されているのです。

これは、iPhoneが装備している

1.カメラとモニタ
2.インターネットにつながる機能
3.位置情報を確認できるGPS機能
4.見ている方位を確認でいるジャイロや加速度センサー

によって実現しており、ユーザーは無料のアプリをダウンロードするだけで、すぐに利用することができます。実際に吹き出しになっているタグ情報には、ユーザーが書き込んだものも多く、もちろん自分も書き込めます。ユーザーの参加によってどんどん面白くなるこのプラットフォームは、より現実社会に近い「ソーシャルメディア」だと言えるかもしれません。

iPhoneをお持ちの方は、ぜひ体験してみてください。カメラ越しに街をぐるりと見渡したとき、ユーザーが投稿した吹き出しがフワフワと浮かんでいる様子、「インターネット社会がリアルに再現」されている感覚が実感できます。

携帯端末やPC向けのサービスとして、他にも多く発表されているAR。今のところ、ゲームやコミュニケーションの分野での活用が多いのですが、今後はビジネス活用も拡がると考えられています。例えば楽天トラベルは、国内2万3千件の施設情報をセカイカメラに提供しており、視界に入っているホテルの上に浮かんでいるエアタグで、宿泊料金やお部屋情報を見て、実際に予約ができるそうです。

携帯端末やPCで培われた技術は、専用のデバイスに置き換えることでもっと面白くなりそうです。「ARメガネ」をかけているだけで、レストランやバスの路線が検索でき、地下鉄で向かいに座った人のプロフィールやブログが見られる。そんな生活も、そう遠くないかもしれませんね。

(2010/02/10 中部経済新聞掲載)

第35回:読書が変わる?iPadと電子書籍

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2010年2月4日

米アップル社から、遂にタブレット型コンピュータ「iPad」が発表されました。

9.7型の液晶画面をタッチして操作するiPadは、少々乱暴に言えば、「大型で高機能なiPhone」のような製品でしょうか。ワイヤレスLANや3G携帯ネットワークに対応し、音楽や動画、アプリのダウンロード購入もできます。iPhone同様、ネットの閲覧やメールのやりとりが簡単なので、PCのヘビーユーザー以外はこれ1台で十分。そんな話もあながち冗談でないかもしれません。

私が最も興味を持っているのは、電子書籍プラットフォームとしての機能です。本を読むのに適した形状のiPadには、電子書籍の閲覧ソフトとして「iBooks」が用意され、電子書籍の店舗「iBookstore」が開設されます。残念ながら発売時点で日本国内からの利用はできないようですが、iBookstoreには、米国の主要出版社数社が参加を表明しています。

現在、電子書籍の先頭を走っているのは、インターネット書店最大のアマゾンが提供する、電子ブックリーダー「キンドル」でしょう。残念ながら日本語の書籍を入手することはできませんが、日本国内でも購入・利用ができますので、英書を読む用途にはおすすめです。最近のアマゾンは注文翌日に配達されるほどの「出前迅速」ぶりですが、キンドルへのダウンロード販売であれば「1分以内にお届け」。人気の新刊やベストセラーも低価格で購入できるとあって、ユーザーは増えています。

電子ブックリーダーは、PCと違い「読む」ことに特化した端末。iPodの出現で、「自分の持っている音楽CDが全て持ち歩けるようになった」のと同様、「自分の本棚を全て持ち歩ける。」「自分の本棚が書店と直結している。」というのは、読書家にとっては夢のような話に思えるのですが、いかがでしょう。

もちろん、電子書籍が普及するためのキーがコンテンツにあることは言うまでもありません。

これまでの出版業界は、デジタルコンテンツと紙の書籍は別ものだと捉え、書籍のデジタル化には及び腰でしたが、電子書籍を楽しむための環境整備、それを求めるユーザーの存在は、業界やビジネスモデルを変える可能性を担っていると思います。

オンラインでの流通を含めたビジネスがきちんと整備されれば「活字離れ」のユーザーを呼び戻す、本格的な「電子書籍」の時代が訪れるのではないでしょうか。

個人的には、防水の端末で書棚をまるごとバスルームにもちこめるようになればと期待しています。

(2010/02/03 中部経済新聞掲載)

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