前回のブライアン・ハリガンのキーノート記事は、いかがだったでしょうか。
カスタマーを成果物として捉えるファネルの時代は終わり、そのファネルに変わって登場した新しいモデルが、フライホイールでした。
ブライアンは、フライホイールを取り入れてビジネスを成長させるには、3つの要素が必要だと話しました。
・円の回転速度
・その時の摩擦の大きさ
・円の構成(円の大きさと質量)
CTOのダーメッシュ・シャア(以下ダーメッシュ)のセッションでは、フライホイールをやや哲学的な視点から説明しています。
特にDelight(顧客を喜ばせること)に注目し、どうやって企業を成長させるかについての話は心を揺さぶる内容です。ダーメッシュのセッション内容を、日本語に訳しましたのでご覧ください。
HubSpotは、そのカルチャーコードでよく知られている事をご存知ですか?
カルチャーコードとは、企業のミッションであり、企業と従業員の関係を表したものです。
従業員は受動的に動くのではなく、会社の掲げるミッションに共感し、主体的に動いていく事が大切です。
ダーメッシュは、カルチャーコードの作成のために、多くの企業カルチャーや従業員が会社に求めている事のデータを集めました。そして、点と点をつなぎ完成させたのが、HubSpotのカルチャーコードです。128スライドものHubSpotカルチャーコードは、作成して以来400万回も閲覧されてきました。
ダーメッシュは、これほど評価されたスライドで1枚だけ残すとしたら、「SFTC(SOLVE FOR THE CUSTOMER)」を残すと話しています。
「HubSpotは、カスタマーを満足させたいのではなく喜ばせたい。ゴールはカスタマーの成功である。」という1ページです。
フライホイールの話に戻りますが、ハリガンのスピーチにあったように、今の時代にはフライホイールを効率よく回転させるためにも、「Delight」に力を注ぐ必要があります。
つまり、カスタマーファーストに着眼したカルチャーがなければ、フライホイールに重りが乗っている状態で、回転することが出来ません。カスタマーを喜ばせることに焦点を当てたミッションがなければ、成功することはありえないのです。
みなさんの企業でも「カスタマーファースト」を掲げていると思います。
HubSpotでは、次の「Circumferic」という造語をつくりました。
これは、企業はカスタマー第一であると言っておきながら、実際は顧客が中心から外れていると言う指摘です。
とはいえ、HubSpotも誕生して12年間、常にカスタマーファーストでは無かったとも感じています。それほど、顧客を第一に考えるのは、難しいことなのです。
では、顧客を第一に考えるとは、どういうことなのでしょうか?
それは「商品を10倍よくすることより、顧客体験を10倍スムーズにすることが大事である」と、ブライアンは語っています。
Amazonは、何を売っているかわかりますか?
本や雑貨などの多くの商品でしょうか?違います。
製品レビューがすぐにわかり、ベストな商品をユーザー自身が簡単に見つけることができる体験を提供しています。
つまり、何を売っているのか?ではなく、どう提供しているのかが大事なんです。
顧客を大事に考えると言う事は、顧客体験を充実させストレスを感じさせないと言うことです。この顧客体験は、商品を購入した時から、購入の継続をやめる時までではありません。
顧客と出会った時から始まります。
顧客体験は企業とカスタマーの関係であり、この関係を「カスタマーコード」と読んでいます。
カルチャーコードを多くのデータから作成したように、カスタマーコードもFacebookやLinkdin、Instagramなどの多くのリソースから調べて作成しました。
その過程では、特に5つの情報が重要であると分かりました。
お客様の興味がないタイミングで商品を売ろうしても、それはお客様の時間を奪うだけです。
アウトバウンドな方法でユーザーに接触しても、意味がないことを裏付ける根拠があります。
必要のないタイミングで売ろうとしても、85%の人が買わなくなる可能性があるのです。
それだけでなく、お客様の時間を奪うことで、ブランドイメージが傷つき、将来に購入する可能性すらも失ってしまうかもしれません。
御社には、効率化のため考え抜かれた素晴らしい購入プロセスがあると思います。
しかし、お客様を無理やり連れ込んではいけません。フライホイールに摩擦が生じる原因になります。
お客様との間に摩擦が生じる要因は、次の2つが考えられます。
そして企業が間違いを犯した時は、すぐに謝罪するべきです。
当たり前のことですが、出来ていない事があります。
ある企業から送られたEメールに「回線工事が〜///中略///〜インターネット接続ができなくなった可能性がある」という内容が書かれていました。この文面には、一行も謝罪の文がありません。
これは、日本企業では少ないかもしれませんが、企業があやまちを犯した場合は、事実を認めすぐに謝罪する必要があります。
ケンタッキーフライドチキンは、チキンが提供できなくなった時に、「申し訳ございませんでした」と記載し、広告費を使ってまで謝罪しています。さらにKFCのCを取り、KFと表記しユーモアも組み合わせていました。
確かに間違いをした場合には、隠したいかもしれませんが、安心してください。
96%のユーザーは、たとえ間違いを犯したとしても、顧客から離れることはないと言う結果が出ています。
むしろ、間違いを間違いとして認めないことや誤魔化すことが、カスタマーとの関係に摩擦を生み出します。
みなさんの商品やサービスの価格は、お客様が購入しようとした時、分かりやすく公開されていますか?
価格は、誰が見ても分かるように公表していることが大事です。価格表示には3つのポイントがあります。
・価格をオープンにすること
確かに、BtoB企業やニッチな業界では、ユーザー1人1人に提供するサービスに差があり、価格をオープンするのが難しいこともあるでしょう。
しかし、ある程度イメージができる形で、公表することは必要です。価格が公表されていなければ、75%のお客様が他の選択肢、つまり競合他社を探しに行ってしまいます。
・価格表示を分かりやすくすること
誰が見ても、サービスや商品の価格を理解できるようにする必要があります。
混乱してしまうような複雑な価格表示の場合、69%の人が購入しないという結果が出ています。
・価格をフェアにすること
お客様にサービスの対価として請求する価格は納得のいくものでなければいけません。
みなさんは、ブロックバスターを知っていますか?
レンタルDVDをサービスにしている会社です。DVDをレンタルしたことがある人なら、経験したことがあると思いますが、延長料金を要求されたことがあるはずです。
例えば、借りたDVD1本を1週間延長すると、延長料金として1,000円分を請求されることがあります。延長した1,000円分、さらに楽しめたかと言うとそうではないですよね。
現在、ブロックバスターはどうなったでしょうか…4,500店舗からたった1店舗までに減少したのです。
このたとえから言いたいことは、価格をフェアにすることです。
フェアにするとは次の2点、
・請求する価格と提供する価値が対等である
・お客様によって変動せず、システム的に価格を決める
ということです。
ブロックバスターの例は前者の「請求された価格に納得できる価値が提供されていない」という例ですね。
そして、後者は特定のお客様には大きなディスカウントを提供し、また別のお客様はフルプライスで請求するなど、これはお客様をフェアに扱っているとはいえません。
割引をするなら条件は平等に、プログラムされていなければなりません。
このようなアンフェアな関係は、フライホイールに摩擦を生じさせてしまいます。
通販サイトで購入する際にワンクリックで購入した経験があるはずです。
しかし、ワンクリックで購入をキャンセルしたり、返品できたことはありますか?
簡単にキャンセルできるようにすることも必要です。
おそらく、簡単にキャンセルができたら、フライホイールの流動性が悪くなるのではないかと思うかもしれません。しかし、実際は違います。
簡単にキャンセルができる方が、フライホイールに流動性をもたせることができます。
89%の人が、キャンセルが簡単の方が、購入するという結果が出ています。
カスタマーコードは全部で10個あり、できているかを10点満点でセルフチェックできます。
正直にチェックすることは、気が向かない方も多いと思います。
しかし、問題は点数ではありません。カスタマーに成功を届けるために、尽くすことが重要です。
INBOUND2018で掲げたメッセージは「GROW BETTER」です。
「早く成長する」でも「大きく成長する」でもなく「より善く成長する」ことが重要です。
ビジョンを持ち、実行することは難しいかもしれません。正しいことと分かっていて、実行するのが難しいこともあるはずです。
しかし、困難であるからこそ、差別化する事で大きなチャンスにもなります。
カスタマーに喜んでもらうためなら、その決断を積み重ねましょう。カスタマーと一緒に成功をつくるのです。これこそが、みなさんを成長させるたった一つのことなのです。