BtoBマーケティングでは、戦略なしに施策を進めると成功の確率が大きく下がります。
しかし戦略の立案は経験豊富なマネージャーにとっても難しいものです。初めて取り組む方にとっては、さらにハードルが高いと感じるかもしれません。
本記事では、BtoBマーケティング戦略の基礎から実践的な手順まで、初心者にもわかりやすく解説いたします。
BtoBマーケティング戦略とは?
BtoBマーケティング戦略とは、企業が他の企業に製品やサービスを販売するための中長期的な計画です。
戦略の目的は、事業目標を達成することにあります。そのためには、次の要素をもとに自社の強みを活かしたマーケティング施策を展開することが重要です。
- 市場の徹底的な分析
- 顧客ニーズの深い理解
- 競合他社の強みと弱みの把握
- 自社が提供できる価値の明確化
競争の激しい市場において、顧客に自社の製品を認知・導入してもらうためには、他社との差別化が欠かせません。しかし、顧客のニーズが多様化している昨今、全ての市場に同じアプローチで成果をあげることは難しいでしょう。マーケティング戦略は、自社が集中すべき方針を定めるものともいえます。
マーケティング戦略と戦術の違い
マーケティング戦略は「ターゲットとなる顧客へ、自社の提供価値をどのように届け、ビジネス目標を達成するか」という全体の方向性や計画を定めます。
これに対し戦術は、その戦略を実現するための具体的な行動や手段を指します。戦略は「何を目指すのか」、戦術は「どう実行するのか」という関係性になります。
マーケティング戦略例と戦術例
詳しいステップは次の章でご説明しますが、まずはマーケティング戦略と戦術の違いをイメージできるよう、架空の部品メーカA社を例にあてはめてみます。
いかがでしょうか。後述のとおり、実際は細かい分析と設定が必要ですが、日々のマーケティング活動が「戦術」、その大枠の方針を定めるものが「戦略」というイメージをつかんでいただければ幸いです。
BtoBにマーケティング戦略が必要な理由
技術革新や規制、顧客ニーズの多様化など変化の激しいBtoB市場において、マーケティング戦略が必要な理由は、大きく3点です。
- 顧客にとっての「自社の提供価値」を明確にし、目標達成のプロセスを定めるため
- 競合優位性を把握し、市場でのポジショニングを明確にするため
- マーケティングにおける資源を効率よく活用し、効果的な施策を実施するため
BtoCマーケティングの場合、対象となる生活者の「商品への所有欲や悩みの解消、体験への期待」を高めるアプローチとなり、顧客層は幅広く購入頻度が高いケースもあります。なにより購入プロセスを1人で完結することが多く、比較的短期間で意思決定が行われます。
一方、BtoBマーケティングは「顧客企業の課題解決」が求められ、複数の意思決定者や影響力を持つ関係者が関与し、検討・決定プロセスが複雑で時間がかかる特徴があります。
また、製品やサービスの技術的な競合優位性、導入後のサポート体制なども重要な判断材料となりますが、業界や企業規模・抱える課題によって、求めている解決方法や投資できる予算は異なります。すべての企業をターゲットとして成功することは難しいのです。
さらに、BtoBマーケティングでは顧客企業との長期的な関係構築が鍵となります。一度取引が成立すれば、その関係は長期にわたって継続されることが多いため、初期の信頼構築と継続的な価値提供が非常に重要になります。
このように複雑なBtoBマーケティングにおいて、場当たり的に施策を行っていても成果は見込めません。限られた予算と人材を効率よく活用するためにも、自社に最適なターゲットとアプローチ方法を選択する必要があり、マーケティング戦略は非常に重要なのです。
適切なマーケティング戦略があれば、組織全体が一貫したアプローチを取ることができ、競争優位性の強化にもつながります。また戦略に基づいた戦術であれば、施策ごとの成果から最終目標に対する進捗も評価することができ、戦略の有効性を振り返りながら、必要に応じて改善していくことができます。
関連記事:BtoBマーケティングの基本プロセス:効果的な戦略立案・手法まで全体像を解説
BtoBマーケティング戦略の立案と実行 7つのステップ
それでは、BtoBマーケティングの戦略立案から実行フェーズまで、大きく7つのステップでご説明します。
1. マーケティングリサーチ(市場調査)
戦略立案の第一歩は、自社が属する市場を徹底的に分析することです。
顧客のニーズや、競合など自社をとりまく環境を把握するための市場調査では、次の3つのポイントを正しく理解しましょう。
- 市場の規模や成長率
- 顧客のニーズやトレンド
- 競合企業の強み・弱み
マーケティングフレームワークのPEST分析、3C分析などが有効です。
PEST分析
マクロ環境分析といわれる自社に影響を及ぼす外部環境を、Politics(政治的要因)、Economy(経済的要因)、Society(社会的要因)、Technology(技術的要因)4つの軸から把握するフレームワークです。
- P(Politics:政治的要因)
政府の政策や法律、規制、国内外の政治状況などが企業活動に与える影響を調べます - E(Economy:経済的要因)
景気や物価動向、為替レートなど経済状況が企業活動に与える影響を確認します - S(Society:社会的要因)
人口や流行、ライフスタイルなど社会や文化変化が企業活動に与える影響を把握します - T(Technology:技術的要因)
技術革新や技術トレンド、インフラなどが企業活動に与える影響も整理します
外部環境には直接コントロールできない要因が多く含まれるため、これを対策することで自社へのリスクを減らしたり、チャンスを最大限に活用する戦略の見通しを立てることができます。
3C分析
Customer(顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)の3つの視点から、自社が置かれた環境を評価して成功要因を探るフレームワークです。
- Customer(顧客)
市場規模や顧客ニーズを調査し、製品やサービスが求められる理由を把握します - Company(自社)
自社の強みや弱み、製品の特徴、技術力、リソースなどを確認します - Competitor(競合)
競合他社の製品や戦略を分析し、自社との差別化ポイントを明確にします
この3つの視点を総合的に分析することで、市場での自社のポジショニングを確立し、効果的な戦略を立案できます。
2. セグメンテーション(市場細分化)
マーケティングリサーチで自社の強み・弱みや取り巻く環境を分析したら、マーケティング戦略の要である「セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング」を定めます。
ひとつひとつご紹介します。
「セグメンテーション」では、市場全体を属性やニーズごとにいくつかのグループに分類します。類似したグループごとに、それぞれのニーズを明確にしていきます。
BtoBマーケティングにおけるセグメントの軸は、業界や企業規模、ビジネスモデル、部門や職種、意思決定者の役職や課題などがあります。
3. ターゲティング(顧客の定義)
セグメントした市場の中から、自社がアプローチすべき顧客群「ターゲット」を定めます。
具体的には、すでに取引中の企業を一覧化して、成果が見込めるセグメントを探していくのもよいでしょう。もしくは、商談中や失注した企業のニーズを整理して、製品やサービスの提供方法や機能改善で叶えられるものがないか検討することも有効です。
関連記事:CRM(顧客関係管理)とは?機能や導入メリット、活用方法をわかりやすく解説
ターゲット市場の選定方法
すべてのセグメントをターゲットとする選択もありますが、経営資源が潤沢な大企業のみが選べる方法と言えるでしょう。
マーケティング戦略の基本は「選択と集中」です。ターゲティングの選定方法として、主なものをご紹介します。
- 集中
1つのセグメントに集中する方法で、小規模な企業やニッチ市場で効果的です。 - 選択的専門化
特定の小規模なセグメントを狙う方法です。競争が少ない分野で独自性を発揮できる場合、またはマーケティングリソースが限られている際に有効です。 - 製品専門化
複数のセグメントを選択し、それぞれに異なるマーケティング施策を展開します。
中規模以上の企業で、一つの強力な製品がある場合などに用いられます。
ペルソナの設定
選定したターゲットをより明確にする手法として有効なのが「ペルソナ」の設定です。
ペルソナは「サービスや製品を利用する理想的な顧客像」のことで、BtoBでは企業ペルソナと担当者ペルソナの2軸で設定します。
ターゲットとなる企業や担当者の解像度が高まると、マーケティングを展開する際に効果的なコミュニケーションや施策選定へのガイドラインとなるため、ペルソナ設定もぜひ行いましょう。
関連記事:【テンプレ付】BtoBペルソナの作り方とは?注意点と活用メリットを解説
4.ポジショニング(市場における自社の強み)
次に、市場における自社の立ち位置「ポジション」、つまり競合との差別化ポイントを見極めます。
具体的には、選定した「ターゲット」に対して自社の製品やサービスをどのように認知してもらいたいか、自社が競合他社に真似されにくい優位性(コアコンピタス)を定めていくステップです。ここでは「SWOT分析」が有効です。
SWOT分析
内部環境と外部環境にわけて、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」を評価し、自社のセールスポイントとなる競合優位性や対策すべき課題を洗い出すフレームワークです。
- S(Strength:強み)
自社の競争優位性や成功要因を指します - W(Weakness:弱み)
自社の改善が必要な点や競争上の不利な要素を把握します - O(Opportunity:機会)
外部環境から得られる成長や成功のチャンスを探します - T(Threat:脅威)
外部環境からもたらされるリスクや障害を把握します
機会や脅威は2−3年先まで考慮すると良いでしょう。内部・外部両方の視点から自社の状況を整理し、活かすべき強みや機会と対策すべき事項が明確になるため、より効果的な戦略立案に役立ちます。
バリュープロポジションの策定
顧客が求める価値に対して、競合にはない「自社だけが提供する価値や独自性」のことをバリュープロポジションといいます。
バリュープロポジションの重要なポイントは、自社が「提供できるもの」ではなく「顧客にとって価値があるもの」を考えることです。これにより「なぜ自社の製品・サービスを選ぶべきか」という理由を顧客に明確に伝えることができるのです。
例えば、「新機能」「高性能」と伝えるよりも、「データ処理時間を半分に短縮」や「年間コストを20%削減」など具体的に顧客が得られるメリットを明確にするとよいでしょう。BtoBマーケティングは、顧客企業が抱える課題を解決することが大切ですから、競合との差別化はもちろん、顧客への提供価値をわかりやすく伝えられるよう整理しましょう。
5. マーケティングミックス(4P・4C)
マーケティングミックスとは、ターゲットにアプローチする際にマーケティング要素を組み合わたものです。マーケティング戦略を具体的な実行プラン(戦術)に落とし込むための具体的な枠組みや指針を定めるものであり、「設計図」のような役割を果たします。
伝統的なマーケティングミックスは4Pといわれ、Product(プロダクト:製品)・Price(プライス:価格)・Place(プレイス:流通)・Promotion(プロモーション:販促や広告)の4つの要素から成り立ちます。これら4つの要素の中心に顧客を見据えながら、企業視点で自社製品を顧客にどのように届けるのが効果的か定めるものです。
4Pよりも、さらに顧客の目線に立ってマーケティングミックスを整理したものが4Cです。
Customer Value(カスタマーバリュー:顧客にとっての価値)・Customer Cost(カスタマーコスト:顧客が負担する価格)・Convenience(コンビニエンス:顧客の利便性)・Communication(コミニケーション:販促や広告)の4つの要素から成り立ちます。
ターゲットやポジションによって、顧客の製品に対する価値の捉え方が異なるため、4Pと4Cを並べて分析することで、自社の戦略と顧客ニーズのギャップを発見し、より顧客中心のアプローチを取ることができるといえます。
6. マーケティング施策の設計
狙うべきターゲットと伝えるべき自社製品の価値やアプローチ方法などマーケティング戦略を定めたら、具体的に展開するマーケティング施策(戦術)へと落とし込みましょう。
BtoBにおけるマーケティング施策は多様化していますが、バイヤージャーニーとKPI(達成すべき目標)、自社のリソース(人員・予算)の3軸から考えます。
バイヤージャーニーの設定
ターゲティングで設定したペルソナの「ニーズや意思決定プロセスのジャーニー」を整理しましょう。見込み客がどのようなステップでニーズを顕在化させ、情報収集から成約まで至るのか、各ステージごとに理解することで選択すべきタッチポイントやコンテンツが分析できます。
解決例に該当するのが、マーケティング施策です。
関連記事:バイヤージャーニーの基本と作成方法を解説!BtoBマーケに欠かせない理由とは
KPIの設定
マーケティング施策ごとの目標設定は、自社の売上や事業成長など最終的な目標へとつながっていることが不可欠です。施策選定の際は、見込まれる成果もシミュレーションしましょう。
主なKPI例は、リード獲得数・獲得率、商談化率、顧客獲得コストなどがあります。
部門別のKPI例やマーケティング施策ごとのKPI例などは、以下の記事にて詳しく説明しておりますので、ぜひ参考にしてください。
関連記事:【図解】KPIとは?意味や具体例、設定方法を簡単にわかりやすく解説
マーケティングリソース(人員、予算)の整理
バイヤージャーニーで設計したタッチポイントやマーケティング施策を、一度にすべておこなうのは難しいことが多いでしょう。
マーケティングに使える予算や人員などのリソースをどこに投資すべきか、前述したKPIを鑑みて、マーケティング施策の優先順位や取捨選択を定める必要があります。
見込み客の母数が圧倒的に足りないのであれば、自覚フェーズの施策も力をいれたいところですが、展示会は出展費用や会場施工費用で数百万円の予算が必要なことも多く、準備から当日まで必要な人員リソースも少なくありません。難しい場合は、Web広告の出稿やウェビナー開催などの施策から始めることでリソースを抑える選択肢もあるでしょう。
関連記事:リード獲得とは?BtoBで見込み客を増やす効果的な施策の選び方
7. パフォーマンスの測定
マーケティング戦略は、継続的な改善が成功の鍵です。
刻々と変化する市場や顧客に対応しながら、戦略を定期的に見直すことで、競争力を維持し、ビジネスの成長を加速させることができます。
そのためには、マーケティング戦術にあたる各施策のKPI進捗は日々モニタリングしながら、事業目標にあたるKGIへの影響を毎月、毎半期など評価していくことが大切です。
まとめ
BtoBマーケティング戦略の立案は、一朝一夕にできるものではありません。しかし、本記事でご紹介した基本ステップを着実に実行することで、効果的な戦略を構築することができます。
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