第13回:「AIDMA」から「AISAS」へ

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年9月3日

15年前には、いろいろと欲しいものがありました。

よりスペックの高いもの、より便利なものを手に入れることで、生活が豊かになると考えられていたころの話です。現在はどうでしょう。景気が悪い、給料が安いといっても、実は消費者は何でも持っています。TV,デジカメ、PC、ケータイ、MP3プレイヤー、エアコン、自転車・・・・。モノは溢れ、新しいモノを購入することを目標にがんばる人も少なくなっているように思います。モノが売れない時代といわれる所以です。

15年前、広告会社のマーケティング担当見習いとなった私が最初に教わったのは「AIDMAの法則」でした。

消費者がある商品と出会い、購入に至るまでに
Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(購入)
の段階があり、広告を作る側は、この段階を意識して設計する必要があるという、とても有名な法則。実は1920年代に提唱されたものだったそうです。

約80年を経て、新たな購買行動のモデルとして、電通によりAISAS(アイサス)が提示されました。
Attention(注意)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(購入)→Share(共有)
となっており、「欲求」の代わりに「検索」が登場、「記憶」はスキップして「購入」「共有」と続くのが特徴です。

長く長く続いた購買行動はインターネットの出現によって大きく変化、「情報共有」による「スピード化」が進行したのです。

そして、ネット上で「共有」される情報を、また誰かが「検索」して「購入」するという流れが定着すると、AIDMA時代に存在していた「Memory(記憶)」という工程の必要が少なくなりました。

少しずつ情報を「記憶」して判断を進めていくのではなく、ネットで一気に情報を集めて結論を出すスタイル。よほど大きな決断でない限り「1年にわたって購入検討を続ける」というケースは減ってきているようです。

モノが溢れる時代。

購入する理由はどんどん少なくなり、購入検討時期はどんどん短くなる傾向にあります。その貴重なチャンスである、「ネット上での出会い」を、いかに効果的に実現するかが重要な鍵であることは言うまでもありません。

メーカーやサービス提供者には、「消費者の要求に最も近いタイミング」で、「必要十分な情報」を提供するための、独自のノウハウが必要となっているのです。

(2009/09/02 中部経済新聞掲載)

第12回:オバマ大統領誕生支えた戦略

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年8月27日

2008年11月4日午後10時頃のニューヨーク、私は、熱気と興奮に包まれたタイムズスクエアに立っていました。

設置された巨大スクリーンに表示されているのは「バラク・オバマ、大統領に当選」の文字。初めてのアフリカ系大統領誕生の瞬間を祝う、この大騒ぎの真っ只中で、私はもう1つの歴史的事実に感動していました。

それは、史上最も多くの人々が「直接」参加した選挙だったという事実。最新のインターネット技術をフル活用し、若い世代と直接コミュニケーションをとり続けたオバマ候補が、従来のマスメディアを中心とした戦術で有権者に訴え続けたマケイン候補に圧勝した瞬間でした。

オバマ候補は、Facebook(日本のミクシィに近いSNS)内に専用のアプリケーションを公開、自分の活動やメッセージを毎日発信し続けました。そして、注目すべきことに、そのメッセージの下には「献金」をするためのボタンが設置されていたのです。20代の若い有権者たちは、毎日彼のメールを受信し、映像で演説を聴き、オバマ候補が訴える新しいアメリカを考え、コミュニティに参加する仲間と対話し、クレジットカードを片手に「献金」ボタンをクリックしました。

こうした100ドル、200ドルという単位の小額の献金が集まり、7億4500万ドルという、史上最高額の選挙資金が集まったと言われます。公的資金の提供を断り、直接有権者との接点から共感と活動資金を集める手法としては、最も洗練され、効果的だといえるでしょう。

ブログ、Twitter、SNS、口コミ、紹介、動画、カード決済・・・・・ インターネットの最新トレンドを活用した双方向コミュニケーションの巧さは、企業のコミュニケーション戦略上も参考になることばかりです。

当選が決定した約1時間後、地元シカゴ市内のグラント・パーク公園で、約24万人の聴衆が見守る中、オバマ候補はあの有名な勝利宣言をするのですが、実は、その前に支援者たちの携帯電話に一斉に届けられたメッセージがあるのです。友人に見せてもらったそのメールの書き出しに、私はコミュニケーションの本質を教えられました。

「親愛なる○○様 今、私は大勢の聴衆の前で勝利宣言をするため、グラント・パークに向かっています。でもその前に、まず「あなた」にお礼をいいたいのです。アメリカを変えているのは「あなた」なのですから。」

特別なタイミングに送られるべき、特別なメッセージが用意されていたのです。
これほど心を揺さぶるメールマガジンの演出を、私は見たことがありませんでした。

(2009/08/26 中部経済新聞掲載)

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