第35回:読書が変わる?iPadと電子書籍

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2010年2月4日

米アップル社から、遂にタブレット型コンピュータ「iPad」が発表されました。

9.7型の液晶画面をタッチして操作するiPadは、少々乱暴に言えば、「大型で高機能なiPhone」のような製品でしょうか。ワイヤレスLANや3G携帯ネットワークに対応し、音楽や動画、アプリのダウンロード購入もできます。iPhone同様、ネットの閲覧やメールのやりとりが簡単なので、PCのヘビーユーザー以外はこれ1台で十分。そんな話もあながち冗談でないかもしれません。

私が最も興味を持っているのは、電子書籍プラットフォームとしての機能です。本を読むのに適した形状のiPadには、電子書籍の閲覧ソフトとして「iBooks」が用意され、電子書籍の店舗「iBookstore」が開設されます。残念ながら発売時点で日本国内からの利用はできないようですが、iBookstoreには、米国の主要出版社数社が参加を表明しています。

現在、電子書籍の先頭を走っているのは、インターネット書店最大のアマゾンが提供する、電子ブックリーダー「キンドル」でしょう。残念ながら日本語の書籍を入手することはできませんが、日本国内でも購入・利用ができますので、英書を読む用途にはおすすめです。最近のアマゾンは注文翌日に配達されるほどの「出前迅速」ぶりですが、キンドルへのダウンロード販売であれば「1分以内にお届け」。人気の新刊やベストセラーも低価格で購入できるとあって、ユーザーは増えています。

電子ブックリーダーは、PCと違い「読む」ことに特化した端末。iPodの出現で、「自分の持っている音楽CDが全て持ち歩けるようになった」のと同様、「自分の本棚を全て持ち歩ける。」「自分の本棚が書店と直結している。」というのは、読書家にとっては夢のような話に思えるのですが、いかがでしょう。

もちろん、電子書籍が普及するためのキーがコンテンツにあることは言うまでもありません。

これまでの出版業界は、デジタルコンテンツと紙の書籍は別ものだと捉え、書籍のデジタル化には及び腰でしたが、電子書籍を楽しむための環境整備、それを求めるユーザーの存在は、業界やビジネスモデルを変える可能性を担っていると思います。

オンラインでの流通を含めたビジネスがきちんと整備されれば「活字離れ」のユーザーを呼び戻す、本格的な「電子書籍」の時代が訪れるのではないでしょうか。

個人的には、防水の端末で書棚をまるごとバスルームにもちこめるようになればと期待しています。

(2010/02/03 中部経済新聞掲載)

第34回:ベトナムIT企業オフショア開発のこれから

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2010年1月28日

3車線の道路のいっぱいに、ひしめき合いながらバイクが走っていきます。

ベトナム最大の都市、ホーチミン市の人口は約800万人。2月のベトナムは乾季にあたり、年間で最も快適な時期だそうですが、それでも汗ばむような強い日差しとほこりの街で、整然とシステム開発を行う新興のIT企業があります。

私は今、オフショア開発先として注目されているベトナム企業を訪問しています。オフショア開発とは、システム開発運用管理などを海外の事業者や海外子会社に委託すること。安価で大量な人件費がメリットになるため、中国やインドをパートナーとする開発が中心ですが、各国の人件費の高騰により、ベトナムへの注目が集まっているのです。

訪問した企業は、トゥーティムとよばれる地域にありました。街の中心からほど近い、河に囲まれた地域は、大規模な道路建設や舗装工事の真っ最中。まだまだ「ジャングル」というイメージと突然現れた近代的なオフィスのギャップに驚きます。3階吹き抜けの開放的な空間には巨大な植物が植えられ、室内の池には色とりどりの鯉が泳ぎ、卓球台が置かれた部屋や、食事が出来る空間では、社員が活発にコミュニケーションをしていました。

約120人の社員を有するこの企業では、日本語ができるエンジニアの育成に力を入れています。社内では日本で働いた経験のあるエンジニアを中心に、日常会話から業務上の技術訓練を約1年かけて教えるそうです。工科大学と提携して、日本語のクラスを運営するなど、より高いレベルで日本の仕事を受けられる体制を準備しているとのことでした。

また、この地区をIT特区として、日本向けのサービス提供や日系企業の誘致を促進する、大規模な計画についても話を聞きました。60階以上の高層オフィスビル群の建設や地下鉄の敷設など、実に壮大なスケール。実現すれば、35000人の技術者が集まる、国内最大のITエリアになるのだそうです。

30歳以下の割合が6割以上といわれ、経済成長率の高いベトナム。今回出会った人たちからも「勤勉で真面目、誠実」な印象を受けました。寺院の彫刻や民芸品の製作技法などから感じる「高い職人気質」も、物作りの現場では共通言語として重要なものです。大卒初任給が2万円以下といわれるベトナムで、高いプロ意識を持って働くシステムエンジニアたち。日本企業のパートナーとしての可能性を感じました。

(2010/01/27 中部経済新聞掲載)

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