第22回:ネットだからできるお手軽「別注」

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年11月5日

「金色のアッパーソールにシルバーのライン、ベースはブラックで踵はレッド。ロゴマークはゴールドで靴紐はシルバーに。刺しゅうされる名前は『turbine』にしよう」。

先日のマラソン大会に出場した私のランニングシューズが、ウェブ上で誕生した瞬間です。

物余りの時代、消費者にうける物作りはどんどん難しくなっているといわれます。そんな中、趣味やライフスタイルが多様化し続ける「顧客」に合わせて商品んを提供する、BTO(ビルド・トゥ・オーダー)の提案はあらゆる領域に広がっています。

そしてその一因はやはりインターネット。受注から生産、発送に至る各工程に一貫してインターネットとデータベースが関与することで、圧倒的なコストダウンが可能になってきました。しかし、本来コストのかかる「特別注文」の工程を、消費者に負担を強いることなく、サービス提供側に変わってもらうには、ウェブサービスにも工夫が必要です。

私のスニーカーが生まれた「Nike iD」のウェブサイト上では、自分の希望するさまざまな色の組み合わせに挑戦できます。自分がデザインしたシューズのリアルな画像は、広告写真のように美しく、友人に自慢したくなるほどです(デザイナーの欄には自分の名前まで記されているではありませんか!)

自分がデザインしたシューズは、何種類も保存でき、その中から気に入ったものをいつでも購入できるというわけです。サイズを変更して、友人に購入してもらうこともできます。自分の所属しているチームがあれば、メンバーでデザインコンテストを開催して優勝デザインを全員で購入するというような楽しみ方もできるようになっています。

もちろん、楽しく注文を完了するというフロントの楽しさだけではなく、同じものがない無限の組み合わせに近い製品を正確に作り上げる工場のライン設計や、品質管理のフローにも特別なものがあるに違いありません。海外から発送されたにしては納期の早さも驚きです。

パソコンの壁紙として設定した「自分だけのスニーカー」を眺めて2週間足らずで、海外の工場から直送された段ボールには、まさにイメージ通りの1足と大きな感動が詰まっていました。

私がウェブサイト上でクリックしたのがスタートの合図となり、海の向こうの工場で、私が想像したカラフルなシューズが、整然とできあがり、仲間と一緒に船旅をしてきたというドラマ。

そんな新しいものづくりを体験する料金としては安すぎます。なにしろ、通常の流通で販売されるベース製品と比べても、ほとんど金額は変わらないのですから。

(2009/11/04 中部経済新聞掲載)

第21回:ネットで楽しく走る方法

カテゴリ:ネット活用実践講座 – 2009年10月29日

日曜日、「第2回名古屋アドベンチャーマラソン」に出場してきました。

ハーフマラソンの部にエントリーしたのですが、タイムはさておき、初めての21kmを完走できたのは嬉しい経験でした。今や日本中がランニングブーム。ネットの仕事が中心でスポーツとは縁がなかったのですが、走り始めたきっかけもまた、インターネットでした。

AppleとNikeが展開中の「Nike+」をご存知でしょうか?今ではiPhoneの標準アプリケーションにもなっていますし、日本ではMixiアプリとしても登場しています。スニーカーにセットする小型の加速度センサー(万歩計のようなもの)や、データをiPodで受信するためレシーバー等がAppleから、センサーを埋め込むことのできる特別仕様のスニーカーがNikeから、それぞれ発売されたのは、日本では2006年の年末。いまから約3年前のことです。

音楽を聞きながら走る、というだけでなく、自分のランニング履歴をネット上に記録しながら、世界中の人たちと競争し、目標をクリアして喜び合うという体験は本当に新鮮でした。ランニングに最適な音楽も取り揃えられ、Appleの音楽配信サイトで購入することが可能。楽しく走り終わったらパソコンにiPodを接続すると、計測したランニングデータが、Nikeが運営するNike+のサイトにアップされる仕組みです。

世界中のユーザーが走るたびに同じようにデータをアップすることで、世界最大のランニングデータベースでありコミュニティとなったNike+は、折りしも始まったブログブームと同調して世界中に拡大しました。

現在のランニングブームの出発点です。結果、「孤独で地味でローテク」な印象だったランニングは、「楽しくお洒落でハイテク」に生まれ変わり、莫大な市場を作り出しました。

世界中のランナーがインターネットを活用できる世界、コストや時間に関する基準が大きく異なる世界を基準に、全く新しいサービスとしてデザインされたこのプロジェクト。「走る」という最もプリミティブな活動を大きなビジネスに育ててしまったこの事例は、ブランドやサービス、商品に関する既成概念を大きく覆すものでした。

もはやNike+は当たり前の環境。いつのまにか21kmを楽しく走ることができるようになった自分の事を考えると、本当にすごいなぁと改めて思うのです。

(2009/10/28 中部経済新聞掲載)

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