この記事の読者の方も、「KPI」という言葉はよく耳にするものの、その意味や正しい活用法を説明するのは難しいと感じる方が多いのではないでしょうか。
本記事では、KPIの基本的な意味と重要性、さらに効果的なKPIの設定方法について詳しく解説します。図解を交えながら、成果を出せるKPIの設定手順を具体例を用いて紹介しますので、KPIをより深く理解したい方や、KPIの効果に悩まれている方におすすめです。
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___________________________________________________________________________KPIとは、Key Performance Indicatorの略称で、日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれます。簡単にいえば、会社や事業が掲げた最終ゴール目標に向けた「重要プロセスの目標数値」がKPIです。ゴール達成に向けた重要なプロセスの進捗を測るための”中間目標”と捉えても理解しやすいかもしれません。
例えば、会社の目標が「売上を増やすこと」だとしたら、目標達成のための重要プロセスは「新規顧客の獲得」や「既存顧客のリピート購入の増加」が考えられます。
この場合、「新規顧客の獲得数」や「既存顧客のリピート購入数」といった具体的な数値目標がKPIです。
KPIを設定することで、目標達成への進め方や進捗評価が可能になり、必要に応じて対策を講じることができます。KGIとCSFについては、次の章でご説明します。
KPIは、最終ゴールを達成するための重要プロセスを数値化したものです。
KGI(Key Goal Indicator)は、会社が達成すべき「最終ゴールの目標数値」です。日本語では「重要目標達成指標」と訳されます。例えば「売上1,000万円」がKGIに対し、「新規成約を10件獲得」という数値がKPIになります。
CSF(Critical Success Factor)は最終ゴールを達成するための「重要なプロセス」を指します。日本語では「重要成功要因」と訳されます。
どのプロセス(CSF)を経れば現状とのギャップを埋めることができ、最終ゴール目標数値(KGI)を達成できるかを定めることは、大変重要なことです。
売上1,000万円のKGIに対して、既存顧客経由の売上で到達できるのか、新規顧客を獲得すべきか。新規顧客が必要な場合、どのくらいの成約数(KPI)が必要なのか、とプロセスを明らかにすることで、目標達成へのプロセスの精度があがりますよね。
CSFと似た概念にKFS(Key Factor for Success)があります。CFSは「組織が戦略を実行するために注力すべき最も重要な領域」を示すのに対し、KFSは「企業が市場で競争優位を確立するために特に重要視される要素」を示すもので、市場シェア・ブランドの強さなど、業界特有の成功要因を指します。
しかし現在では「事業の成功、目標達成させるための要因」という広義な意味として、どちらもほぼ同様の意味で活用されています。
KPIツリーとは、会社のKGIを達成するために設定された指標(KPI)が、どのように連携しているかを視覚的に示すものです。ツリーの根元にKGIがあり、その最終目標に向かって各部門やプロセスごとのKPIが枝のように広がっていきます。
会社のKGIが「売上高」だとすると、営業部門では「新規顧客の受注数」、マーケティング部門では「見込み客数」といったKPIが設定されます。
KPIを達成するために必要なプロセスが複数ある場合は、サブKPIとして設定されることがあります。
マーケティング部門のKPI「見込み客数」を増やす重要プロセスは「来訪者数」です。その来訪者数を増やすプロセス(施策KPI)に「Web問い合わせ数」「ウェビナー申込数」「展示会名刺交換数」などがあるわけです。
このように、KPIツリーを使うことで、会社全体の戦略がどのように具体的な活動に反映されているかを一目で把握できます。ぜひ活用してみてください。
KPIはなぜ重要なのでしょうか。4つの視点からそのメリットを改めて説明します。
KPI設定により、最終目標(KGI)達成に向けた具体的な計画が立てられます。
KGIが「売上高」の場合も、気合いを入れて漠然と営業電話を増やしても、達成の見込みは判別しづらいものです。全社共通のゴール(KGI)に基づいて各部門の目標(KPI)を設定することで、業務の目的が明確になり、部門間で共通認識を持ちやすくなります。これにより、各部門がお互いの取り組みを理解し、連携がしやすくなります。
例えば、今期の売上目標が前期比130%の場合、単に前期と同じ施策を繰り返すだけでは、目標達成は難しいでしょう。重要なのは、各部門の人員や予算の配分、そして施策のシミュレーションを立てることです。
マーケティング部門であれば、過去の施策実績や今期のイベント計画をもとに、部門KPIを達成するためにはどの施策を強化すべきか、予算はどう配分すべきかといった具体的な計画を立てることができます。
KGIからKPIへと目標を細分化し、達成ステップを明確にすることで、リソースの最適な配分が可能になります。これにより、チーム全体が迷うことなく目標達成に向けて効率的に取り組むことが可能となります。
KPIがあれば、プロセスの進捗に応じて迅速に対策を講じることができます。
何の指標もなければ、対応が遅れたり、適切な判断が難しくなったりしますが、KPIを活用することで、プロセスの進捗状況を正確に把握し、早い段階での軌道修正が可能です。これにより、最終目標(KGI)達成の確実性が高まります。
KPIは、チームのメンバーの成長にも役立ちます。メンバーが「自分の業務が会社の事業目標(KGI)にどのように貢献しているか」を理解できれば、モチベーションは向上するでしょう。
さらに、目的が明確になることで、一人ひとりが果たすべき役割や優先すべき業務を理解し、“考えて行動する”自律型人材へと成長していくことが期待できます。
マーケティング部門のKPIを例に、KPIの具体的な設定方法を解説します。
KPIは、最終目標(KGI)を達成するために逆算して設定するのが基本です。
下の図を参考に、KGIから各部門のKPIを考えましょう。
各部門KPIを設定するには、KGIを起点に、営業の「新規成約数」のために必要なインサイドセールスの「案件数」、マーケティング部門は「見込み客」を何人創出すればよいかという順序で、目標達成に必要な数値を算出していきます。
今回は、受注率や案件化率・リード獲得率などのコンバージョンレート(CVR)を前期同様の「定数」として、案件数などのアクション数を「変数」としました。
しかし、営業部門の「案件数増加」が、人員リソースから現実的でない場合は「受注率の改善」をKPIとするなど、状況にあわせて設定しましょう。
具体的な数値にあてはめて、考えてみてみましょう。
例えば「売上3,000万円」の達成から逆算した結果、マーケティング部門は「見込み客250人の獲得」をKPIとして設定しました。
KPIを精度高く算出していくためには、各フェーズの獲得率や案件化率など、算出時のキーとなる数値を日頃から確認しておくことも重要です。さらに言えば、期末予算が多い3月末の実績と夏の獲得率を同様の数値で算出すべきかなども考慮するとよいでしょう。
しかし、これでKPI設定が完了したわけではありません。
次のステップとして、部門KPIをさらに細分化し、半年間で取るべき具体的なアクションを明確にしていく必要があります。
会社のKGIから掘り下げた、部門KPIにおいても戦略・施策検討の基盤になるCFSは重要です。特にマーケティング部門では施策の選択肢が多く、各施策のリード獲得率が異なるため、トータルで部門KPIを達成できるように、まずは過去のマーケティング施策実績などを元に考えます。
見込み客獲得のための重要なプロセスを「オンライン施策・オフライン施策」から考えるほかに「見込み客の獲得」と「見込み客の育成(掘り起こし)」という視点もあります。
展示会や広告など新規リード獲得の施策は十分に行っているが、案件化しなかったリードが溜まっている場合は「見込み客の育成フェーズの施策」に注力することも有効です。
自社にあったCFS(重要プロセス)を定められたら、とるべきマーケティング施策の選定を行いましょう。
また、KPI達成のための手段は施策だけに限りません。例えば、見込み客を効率的に育成するためにMA(マーケティングオートメーション)を導入することも効果的な手段となり得ます。
関連記事:リードナーチャリングとは?必要性とリードの育成方法、成果をあげるツールを解説
施策のラインナップが決定したら、施策ごとにKPIを設定します。
KPIは、各施策のCVR(コンバージョンレート/最終的な成果)やリード単価も考慮して設定することが重要です。現実的に見込めない数値や予算が出ない数値を設定したり、逆に、目標達成できてもKGI達成につながらない質の悪い数値を設定しては意味がありません。
全ての施策のKPIを一気に増加させなくても構いません。改善できそうな施策に力を入れ、増加が難しい施策は前期を維持する、という具合にバランスを取り、全体でとりまとめた時に部門のKPIを達成できるように設定すれば十分です。
それぞれの施策とそのKPIを追う主担当者を決めておくとメンバーの動きが分かりやすく、組織の動きが円滑になります。
関連記事:リード獲得とは?BtoBで見込み客を増やす効果的な施策の選び方
これまで「KPI=重要プロセスの目標数値」と説明してきましたが、数の「質」も考慮できると非常に成果があがりやすくなります。マーケティング部門のKPIは達成しているのに、売上が伸びない、他部門から評価されないと感じる場合は、質を見直しましょう。
例えば、展示会で大量にリード獲得できたとしても、その展示会のテーマが自社のサービス検討層とは合わない場合、インサイドセールスに引き渡しても案件化しづらいかもしれません。数値目標の達成も重要ですが、その数値が最終ゴールであるKGI達成に結びつかなければ、意味がありません。KPIは、KGI達成に直結する目標であることが前提です。
KPIを有効なモニタリング指標として活用するためには、受け入れ条件や効果測定の方法、報告期間もあらかじめ定めておくことが大切です。
受け入れ条件も数値の「質」です。マーケティング部門が獲得する見込み客がインサイドセールスや営業部門で有効に「活用できる状態」であるかどうか、その条件を決めておくことで、部門間の連携が円滑になります。
例として、会社名・部署名・氏名、役職のランクがある、連絡先がフリーアドレスのものや競合ドメインは除外する、などが考えられます。明確に評価する基準を設定し、関係者全員で共有しておけば、部門間での認識のズレを防ぐことができ、連携もスムーズになります。
また、達成度合いの測定方法も定めましょう。
以下のような明確な評価基準を決めておくと関係者間で認識のズレを防ぐことができます。
A.計画通り進んでおり最終目標を達成できる見込み
B.計画を下回っているが差異20%未満で最終目標は達成可能な見込み
C.計画に20%以上到達しておらず、現状では最終目標の達成が不可能な見込み
部門ごとにKPIの例を見てみましょう。
マーケティング部門は、主にオンライン・オフラインによる活動を通じて新規顧客を開拓・育成し、インサイドセールス部門へ引き渡します。
マーケティングは施策も多いことから、サブKPIが多く設定されることも特徴です。成果への貢献度が高い注力すべきKPIをしっかりと定め、進捗の良し悪しを判断する参考値として他のサブKPIを活用しましょう。
■主なKPI
・見込み客数
・来訪者数(接触リード数)
・見込み客育成数(MQL創出数)
サブKPI
・展示会での名刺獲得数
・ウェビナーの参加者数
・自社サイトからの資料ダウンロード数
・メルマガの登録者数(メール開封率、コンバージョン率) など
インサイドセールス部門は、電話やメールによる非対面の営業活動で新規顧客や既存顧客の掘り起こしを行います。
■主なKPI
・架電によるアプローチ件数
・電話やメールでの案件獲得数
・電話やメールでの商談単価 など
関連記事:インサイドセールスとは?営業との違い・役割や導入メリットをわかりやすく解説
営業部門は、会社のKGIに最も近い部門です。顧客に直接アプローチをかけ、商談から成約に結びつけて売上達成を目指します。
■主なKPI
・訪問アポイント件数、商談数
・案件数
・受注率
・受注単価
サブKPI
・営業個人の売上高 など
設定したKPIが効果的であるかを確認するために、以下の4つのポイントで最終チェックを行いましょう。
繰り返しとなりますが、KPIは、KGIを達成するための指標です。設定したKPIを追うことで、最終的にKGIの達成に結びついているかを確認しましょう。KPIツリーを使って、KGIと部門ごとのKPI、さらにはその下位のKPIが連携しているかを見直すことが重要です。
また、その数値の「質(条件)」が後続の部門で有効に活用されるように設定されているかも確認しましょう。
KPIを設定する際は、リードタイム(成果が出るまでの期間)を考慮していますか?
例えば、営業部門が3月末に成約を見込んでいる場合、その前の工程であるマーケティング部門やインサイドセールス部門は、いつまでに見込み客を引き渡すべきかを考える必要があります。見込み客の育成に時間がかかる場合、営業部門の成約見込み時期を次の期に延ばすことも検討する必要があるかもしれません。
リードタイムを考慮し、部門間でKPI設定を確認し合いましょう。
KPIの数値は、担当部門でコントロール可能なように設定されていることが大切です。
例えば、マーケティング部門が「成約数」をKPIに設定するのは適切ではありません。成約は営業部門の役割であり、マーケティング部門がコントロールするのは難しいからです。
マーケティング部門が設定すべきKPIは「成約数」ではなく、成約につながる「見込み客の数」であり、「資料ダウンロード数」や「ウェビナー申込数」をサブKPIとすれば、企画や運営に取り組むことで数値の向上がはかれます。
KPIは設定後の運用が重要です。リアルタイムに近い形で数値を追える状態を作ることで、進捗を確認しながら適切な対策を講じるKPIマネジメントが可能になります。
たとえ計画通りに進んでいなくても、KPIを通じて早期に問題に気付き、速やかに軌道修正できるような体制を整えておくことが大切です。
現場のメンバーが部門KPIを十分に把握しているか確認しましょう。
よく起こるのが、管理職だけがKPIを理解し、現場メンバーは自分が担当する施策KPIしか認識していないケースです。その結果、部門KPIの達成が困難になることがあります。
メンバー全員が、会社のKGIとKPIの関係性、KPIツリーの構造を理解し、自分のKPIがどのような役割を果たしているかを俯瞰して理解することが大切です。現場メンバーが全体像を理解すれば、他の施策担当者との連携が生まれ、組織の動きが円滑になり、成果を上げやすくなります。
慣れないうちは、期初にKPIを説明しただけでは浸透が難しいかもしれません。定期的にモニタリングの報告を行い、各施策の数値を共有できる環境を整えておくと良いでしょう。
KPIのメリットを紹介しましたが、実はKPIはうまく活用しなければデメリットになることもあります。KPIを細かく設定すればするほどKGIとの連携という大前提の視点を見失ってしまったり、目先の数字達成が目的になってしまうのが、起こりがちな失敗例です。
特にBtoBマーケティングでは、多くの施策が存在するため、最適なKPI設定に悩むことも少なくありません。それでも、KPIの設定に取り組む価値は大いにあります。
目的と構造をしっかり理解し、最適なKPIを設定することで、部門内や部門間の連携が強まり、KGI達成の進捗が飛躍的に向上するはずです。最初から完璧なKPI設定は難しくても、本記事でご紹介したポイントをおさえ、改善を重ねながらKPI設定と運用にぜひ取り組んでみてください。